はじめに
人工羊水注入(Amnioinfusion: AI)は、羊水過少や臍帯圧迫による胎児心拍異常などを改善する目的で行われる処置です。生理食塩水や人工羊水を子宮内に注入し、臍帯や胎児と子宮壁の間にスペースを作ることで圧迫を和らげます。
妊娠中や分娩中に実施されることがありますが、その効果やエビデンスは状況によって異なります。また、稀ではあるものの重篤な母体合併症の報告もあり、適応や限界を理解したうえで実施する必要があります。ここでは、AIの効果、限界、注意点を整理します。
人工羊水注入とは?
- 方法
- 妊娠中AI:破水前でも経腹的に羊水腔へ注入。
- 分娩中AI:破水後に経腟的カテーテルから注入。
- 目的
- 臍帯圧迫の軽減、羊水過少の改善、超音波診断の精度向上、胎便吸引症候群予防など。
妊娠中AIでの説明ポイント
- 可能な効果
- 羊水過少で胎児や胎盤の描出が不良な場合に超音波診断精度を改善。
- 第3三半期の早産期・前期破水で、変動一過性徐脈や臍帯動脈pHなどの短期予後を改善する可能性。
- 限界
- 第2三半期前期破水では長期予後改善や新生児死亡率低下のエビデンスは乏しい。
- 胎児腎疾患や尿路異常に伴う羊水過少での予後改善も確立していない。
分娩中AIでの説明ポイント
- 可能な効果
- 臍帯圧迫による変動一過性徐脈を減らす。
- 帝王切開率、器械分娩率、短期予後(Apgarスコア、入院日数)改善。
- 限界
- 胎便吸引症候群(MAS)の予防効果は明確でない。
- 羊水混濁例でもMASや周産期死亡率低下のエビデンスなし。
合併症の説明
- 羊水塞栓症、肺水腫などの重篤な母体合併症が稀に報告されている。
- 直接的な因果関係は証明されていないが、母体死亡の可能性があるため注意が必要。
実施の現状(日本)
- 妊娠中AI:主に羊水過少、胎児診断目的、前期破水。使用液は生理食塩水が多い。
- 分娩中AI:主に胎児心拍異常、羊水過少。除外基準は臍帯下垂や絨毛羊膜炎など。
問題
38歳、妊娠38週、経産婦。破水後に変動一過性徐脈が続くため、人工羊水注入を検討している。正しい説明はどれか。1つ選べ。
A. 胎便吸引症候群の発症率を有意に低下させる。
B. 帝王切開率を減少させる可能性がある。
C. 長期的な新生児予後改善効果は確立している。
D. 母体合併症は報告されていない。
E. 第2三半期前期破水例では周産期死亡率を有意に減少させる。
正解
B
解説
- B:分娩中AIは帝王切開率や短期予後を改善する可能性がある → 正しい。
- A:MAS予防の有効性は明確でない → 誤り。
- C:長期予後改善の証拠は不十分 → 誤り。
- D:羊水塞栓症や肺水腫などの母体合併症報告あり → 誤り。
- E:第2三半期前期破水で周産期死亡率低下は確認されていない → 誤り。
まとめ
人工羊水注入は、特に分娩中の臍帯圧迫による胎児心拍異常に対して短期予後改善の可能性がある処置です。しかし、長期的な児の予後改善を示す強いエビデンスは少なく、適応は慎重に判断する必要があります。また、稀ながら母体に重篤な合併症が起こる可能性もあり、実施前には必ずリスクと限界を説明することが重要です。

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