CQ613:妊娠中の梅毒:爆増する感染症から母児を守るための診断・治療・管理ガイド

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はじめに:なぜ今、梅毒を学び直す必要があるのか?

梅毒は『過去の病気』ではありません。2012年以降、日本での報告数は急増しており、2019年には2012年の約10倍にまで達しました。

梅毒放置の恐ろしさ

梅毒を未治療のまま妊娠を継続すると、以下のような深刻な事態を招きます。

  • 胎児死亡・周産期死亡: 初期梅毒では約40%。
  • 先天梅毒: 妊娠前4年間の罹患では約80%に胎児感染が起こり、生存児にも多彩な症状(骨病変、肝脾腫、難聴、歯の異常など)が現れます。

しかし、妊娠中に適切な治療を行えば、母子感染は防げます。 私たち産科医の役割は、この「防げる悲劇」をゼロにすることです。


1. 【検査】RPRとTPHAの組み合わせを読み解く

梅毒の診断には、性質の異なる2種類の抗体検査を組み合わせるのが鉄則です。

① STS(RPR法):非特異的検査

  • 特徴: 感染の「活動性」を反映します。
  • メリット: 治療が成功すると数値が下がるため、経過観察に最適。
  • デメリット: 妊娠、膠原病、他の感染症などで生物学的偽陽性(BFP)が出やすい。

② 梅毒トレポネーマ抗体(TPHA法、FTA-ABS法):特異的検査

  • 特徴: 梅毒トレポネーマそのものへの抗体。「感染の既往」を反映します。
  • メリット: 特異度が高く、一度陽性になると一生陽性が続くことが多い。

検査結果の解釈マニュアル

RPRTP抗体解釈と対応
(−)(−)梅毒ではない(ただし、感染超初期のウィンドウ期は注意)。
(+)(−)**BFP(偽陽性)**の可能性が高い。1か月後に再検を。
(−)(+)陳旧性梅毒(過去に治癒)または極めて早期。
(+)(+)活動性梅毒。治療が必要です!

研修医へのアドバイス:

RPRの数値(16R.U.以上など)は届出の基準になりますが、数値が低くても「活動性」と判断されれば治療対象です。迷ったら「最近の感染機会があるか?」の問診が鍵になります。


2. 【治療】第一選択はペニシリン!最新の注射薬も登場

診断がついたら、速やかに治療を開始します。

治療のスタンダード

  • 経口薬: アモキシシリン(500mg)1日3回を4週間。
  • 注射薬(新星):ベンジルペニシリン(ステルイズ®)
    • 2022年から日本でも使用可能になった筋肉注射薬です。
    • 早期梅毒なら1回の筋注で済む場合もあり、内服のアドヒアランスが不安な症例でも確実に治療できます。

注意すべき「Jarisch-Herxheimer(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー)反応」

治療開始後、数時間でウイルスが破壊される際に毒素が出て、発熱や発疹の増悪が起こります。

妊婦さんでは、この反応に伴い子宮収縮(切迫流早産リスク)が起こることがあるため、初期治療開始時は慎重な観察が必要です。


3. 【フォローアップ】お腹の赤ちゃんのサインを見逃さない

治療中も、超音波検査で胎児の状態を細かくチェックします。

先天梅毒を疑う超音波所見

  • 胎児肝脾腫: ウイルスによる炎症。
  • 胎児腹水・胎児水腫: 貧血や心不全のサイン。
  • 胎盤の肥厚: むくんだ分厚い胎盤。

これらの所見が出ている場合、すでに胎児感染が進行している「ハイリスク症例」として、より高度な施設での管理が必要になる場合があります。


4. 出生後の管理と法的義務

赤ちゃんの診断

出生児が「先天梅毒」かどうかは、以下の基準で判断します。

  1. 臨床症状がある。
  2. RPR価が母体の4倍以上。
  3. FTA-ABS IgM抗体が陽性。(これ、最重要!)

7日以内の届出

梅毒は5類感染症であり、全数把握疾患です。

診断した医師は、7日以内に保健所に届け出る義務があります。これ、当直医が忘れがちなので注意しましょう!


問題 医師国家試験レベル

問題1

妊娠12週の妊婦。初期検査でRPR 32 R.U.、TPHA 陽性であった。適切な対応はどれか。

A. 自然に治癒することが多いため経過観察する。

B. 感染症法に基づき、24時間以内に保健所へ届け出る。

C. アモキシシリンの内服治療を開始する。

D. 児への影響を考え、治療は安定期(16週以降)まで待つ。

E. 分娩様式は選択的帝王切開を第一選択とする。

【正解】C

【解説】

A:放置は厳禁。胎児死や先天梅毒に直結します。

B:届出は「7日以内」です。

C:正解。ペニシリン系抗菌薬が第一選択です。

D:治療を遅らせるメリットはありません。

E:梅毒のみで帝王切開にする適応はありません。


問題2

梅毒の治療開始直後に、妊婦が発熱と全身倦怠感を訴え、軽度の子宮収縮を認めた。考えられる現象はどれか。

A. 羊水塞栓症

B. 治療薬によるアナフィラキシー

C. Jarisch-Herxheimer反応

D. 常位胎盤早期剥離

E. 梅毒の劇症化

【正解】C

【解説】

抗菌薬投与直後の発熱と病変増悪(および子宮収縮)は、Jarisch-Herxheimer反応の典型的な経過です。


まとめ

記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。明日からの診療に活かせる「まとめ」です。

  1. 「いま、梅毒は増えている」という意識を全妊婦に持つ。
  2. RPR(活動性)とTP抗体(既往)をセットで解釈。迷ったら問診。
  3. 治療はペニシリン。 ステルイズ®(筋注)の登場で選択肢が広がった。
  4. ヘルクスハイマー反応による子宮収縮に注意。
  5. 胎児の肝脾腫・水腫を超音波で徹底マーク。
  6. 診断したら7日以内に保健所へ!

梅毒は、私たちの「気づき」と「正しい知識」があれば、100%防げる後遺症がある疾患です。若年妊婦さんが増えている今こそ、このCQを胸に刻んでおきましょう!

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