CQ011:【周産期メンタルヘルス】精神障害ハイリスク妊産婦の見極めと対応法

産科ガイドラインを勉強する

はじめに

妊娠・出産は人生の大きな転機である一方、精神的なストレスが増大する時期でもあります。特にうつ病や不安障害のリスクが高い妊産婦について、早期にリスクを抽出し、適切な支援を行うことが重要です。

本記事では、精神疾患ハイリスク妊産婦へのアプローチを、産婦人科医として現場で何をすべきか、ガイドラインに基づいてわかりやすく解説します。


1. 初診時に聞くべきこと:精神疾患の既往歴

妊婦健診の初診時には、精神疾患の既往歴を必ず確認しましょう。

  • うつ病、パニック障害、統合失調症、双極性障害などの既往歴は要チェック。
  • すでに精神科や心療内科に通院しているかどうかの確認も忘れずに。

→これはCQ002との関連もある基本的ステップです。


2. 妊娠中のリスク評価:スクリーニングの実際

うつや不安の兆候は、以下のような方法で評価できます。

◆ Whooley 質問(うつ病評価)

NICEガイドラインでも紹介されている2項目質問。妊婦健診時の一般的な会話の中で質問します:

  1. 「最近、気分が沈んだり、憂うつな気分になることが多くありますか?」
  2. 「物事に対する興味や喜びを感じにくいことがありますか?」

→どちらかに「はい」があれば、うつ状態の可能性あり

◆ EPDS(エジンバラ産後うつ病自己評価票)

  • 妊娠中にも使用可能。
  • カットオフ値:日本では13点以上(特に第2三分期)、海外では15点以上が目安。

◆ 不安障害の評価:GAD-2/GAD-7

  • GAD-2:GAD-7の最初の2問を抽出した簡易版。不安評価として有用。
  • GAD-7:10点以上で陽性と判断(感度89%、特異度82%)。

3. スクリーニング陽性時の対応:連携がカギ

スクリーニングでハイリスクと判断されたら、以下の流れで対応します。

◆「重度精神機能障害」が疑われる場合

  • 家事や育児などの生活機能が著しく損なわれている場合
  • 例:昼夜逆転・清潔保持困難・自殺念慮・被害妄想・児への危害

精神科医へ紹介 + 行政機関へ情報提供(保健師・福祉士など)

◆ 精神機能障害の重症度評価

  • 精神科領域ではDSM-5の評価分類GAF(Global Assessment of Functioning)尺度を使用。
  • GAF < 50程度は「著しい機能障害」と見なされ、母子分離や介入が検討されることも。

4. 行政との連携と情報提供

妊産婦が「特定妊婦」とされる場合、児童福祉法のもと、要保護児童対策地域協議会(要対協)で支援方針が検討されます。

◆ ポイント

  • 医療機関から行政への情報提供は個人情報保護法違反ではない(改正児童福祉法に基づく)。
  • ただし、患者本人への説明と同意取得が原則。

問題
妊婦健診でのメンタルヘルススクリーニングに関して正しいのはどれか。1つ選べ。

A. GAD-7で3点以上を陽性と判断する。
B. EPDSは産後専用であり妊娠中の使用はできない。
C. Whooleyの2項目質問は助産師でも実施できる。
D. 精神疾患の既往がない場合はスクリーニングの必要はない。
E. スクリーニング陽性であれば必ず精神科医に紹介する。


解説と解答
正解:C

  • A:GAD-7は10点以上が陽性の基準。
  • B:EPDSは妊娠中にも使用可能とされている。
  • C:正しい。Whooley質問は簡易であり、助産師が行うことも想定されている。
  • D:既往がなくても、社会的要因や妊娠中の環境変化で発症リスクがあるため評価は必要。
  • E:全例紹介は現実的でなく、重度機能障害が疑われる場合に紹介・連携が推奨される。

まとめ

精神疾患のリスクを抱える妊産婦に早期介入できるかどうかは、初期スクリーニングとチーム医療・行政との連携が鍵です。
医学生・研修医のうちからこの視点を持つことで、産婦人科医としての信頼と患者の安心を両立できます。

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