はじめに
妊婦健診の初期段階では、母児の安全を守るためにさまざまな血液検査が行われます。これらは妊娠に影響を与える感染症や疾患を早期に発見し、必要な対応をとるために欠かせない検査です。
今回は、日本産科婦人科学会のガイドラインに基づいて、妊娠初期に行うべき血液検査項目とその意義について解説します。
妊娠初期に行うべき血液検査項目(推奨レベルA/C)
検査項目 | 意義と注意点 | 推奨レベル |
---|---|---|
ABO血液型/Rh血液型 | 輸血・新生児溶血性疾患のリスク評価 | A |
不規則抗体スクリーニング | 母児間の血液型不適合の評価 | A |
血算 | 貧血や血小板減少などの全身状態確認 | A |
HBs抗原 | B型肝炎母子感染リスクの評価 | A |
HCV抗体 | キャリアであればHCV-RNA測定へ | A |
HIV抗体 | 母子感染予防のため早期発見が重要 | A |
梅毒スクリーニング | 未治療では先天梅毒のリスクあり | A |
風疹抗体(HI法) | 先天性風疹症候群予防のため抗体価チェック | A |
HTLV-1抗体 | 母乳感染のリスク評価。早期検査が望ましい | A(30週までに) |
血糖検査(+HbA1c考慮) | 妊娠糖尿病や既存糖尿病の早期発見 | A |
トキソプラズマ抗体 | 抗体陽性例の管理が難しく、スクリーニングとしては慎重に | C |
補足ポイント・注意すべきこと
- HIV, HBs, HCV, 梅毒、風疹などは公費でカバーされることが多く、法的にも健診で実施が求められる。
- **トキソプラズマ・CMV(サイトメガロウイルス)**は、母児感染の対応方法が限定されるため、スクリーニングとしての有用性が十分とは言えず、慎重に行う必要があります。
- 血糖値はHbA1cも含めて、妊娠前からの糖尿病が潜んでいる可能性も念頭にチェック。
ガイドライン上の取り扱いと推奨背景
これらの検査項目は、厚生労働省が通知する「妊婦に対する健康診査の望ましい基準」に基づいており、全国的に標準化されています。
特に最近では、HIVやHTLV-1の早期検出による感染予防や治療の介入が重要視されており、検査のタイミングや解釈についても注意が必要です。
問題
妊娠初期の血液検査として、公費で実施されることが多く、すべての妊婦に推奨される項目として正しいのはどれか。2つ選べ。
A. トキソプラズマ抗体
B. ABO血液型
C. HIV抗体
D. CMV抗体
E. 風疹抗体価
正解
B, C, E
解説
- B(ABO血液型):分娩や輸血管理、新生児溶血のため重要。公費対象。
- C(HIV抗体):母子感染予防のため、必須のスクリーニング検査。
- E(風疹抗体価):先天性風疹症候群のリスク評価に必須。
- A(トキソプラズマ抗体):一部施設で任意実施されるが、全国一律ではなくC評価。
- D(CMV抗体):診断後の管理方法が確立していないため、ルーチン推奨されていない。
まとめ
妊娠初期の血液検査は、母体と胎児双方の安全確保のために非常に重要です。今後、臨床に出た際にも必ず行う検査ですので、目的と背景をセットで覚えておくと国家試験でも実践でも役立ちます。

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