はじめに
骨盤位(殿位)は、妊娠後期における代表的な胎位異常のひとつで、正期産全体の約3〜5%に発生します。胎児の頭が先に出る頭位と比べ、分娩時のリスクが高く、児の予後にも大きく関わるため、その管理方法や分娩様式の選択は非常に重要です。
特に、経腟分娩を行う場合には施設体制やスタッフの技量、緊急対応能力が問われます。本稿では、ガイドライン(CQ402)をもとに、骨盤位分娩の基本知識、最新エビデンス、実臨床での判断ポイントを、医学生・初期研修医・後期研修医向けにわかりやすく解説します。
骨盤位とは?
骨盤位とは、胎児の先進部(先に出る部分)が頭ではなく骨盤側(お尻や足)である状態を指します。
分類
- 単殿位:お尻が先進し、膝は伸展して足は上方に位置
- 膝位:膝が先進
- 足位:足が先進
臨床的には、単殿位が最も多く、経腟分娩が検討されるのもこのタイプが中心です。膝位や足位は児の娩出が困難でリスクも高く、帝王切開が推奨されます。
骨盤位分娩が問題になる理由
頭位分娩では最大径の頭が先に通過するため、残りの体は比較的スムーズに娩出されます。しかし骨盤位では頭が最後に出るため、児頭骨盤不均衡や頸部が引っかかることによる分娩遷延が起こりやすくなります。
主なリスクは以下の通りです。
- 臍帯脱出(cord prolapse)による急激な胎児低酸素血症
- 頭部娩出困難による分娩遷延
- 分娩外傷(鎖骨骨折、腕神経叢損傷など)
- 新生児仮死
分娩様式の選択基準
経腟分娩が可能な条件(全て満たす必要あり)
- 骨盤位分娩に熟練した産科医が常駐していること
- 十分な説明と同意(帝王切開とのリスク比較を含む)
- 緊急帝王切開が即時可能な施設体制
- 分娩中の連続胎児モニタリングが可能であること
帝王切開を選択すべきケース
- 膝位・足位
- 低出生体重児(<2500g)
- 早産(特に未熟児)
- 骨盤計測で児頭骨盤不均衡が疑われる場合
国際的エビデンスと変遷
**Term Breech Trial(2000年)**では、正期産単胎骨盤位の選択的帝王切開群が経腟分娩群よりも新生児の予後が良いと報告され、多くの国で帝王切開が標準化されました。
一方、2015年のCochraneレビューでは、2歳時点の神経発達には有意差がないとされ、経腟分娩の可能性も再評価されています。ただし、周産期死亡率は依然として経腟分娩群で高い傾向があり、安全性確保が最重要とされます。
ACOGは、経験豊富な施設と医師が条件を満たす場合には経腟分娩も許容されるとしています。
外回転術(ECV:External Cephalic Version)
経腟分娩の安全性向上や帝王切開回避のため、36週以降に外回転術を行うことがあります。
条件
- 前置胎盤や多胎妊娠などの禁忌がない
- 緊急帝王切開が可能な施設
- 胎児心拍モニタリングが実施可能
リスク
- 胎児心拍数低下
- 常位胎盤早期剝離
- 破水
実施後は胎児モニタリングを行い、Rh陰性妊婦には抗D免疫グロブリンを投与します。
問題
正期産単胎骨盤位妊娠。母体・胎児に異常はなく、母体は経腟分娩を希望している。経腟分娩を行う条件として正しいのはどれか。2つ選べ。
A. 外回転術が成功している
B. 骨盤位分娩の熟練医が常駐している
C. 緊急帝王切開が可能な施設である
D. 妊婦が20歳未満である
E. 低出生体重児である
正解
B, C
解説
経腟分娩には熟練医の常駐、緊急帝王切開の即時対応、十分な説明と同意が必須です。
低出生体重児や膝位・足位は経腟分娩の適応外となり、帝王切開が推奨されます。外回転術は必須ではなく、実施しないケースもあります。
まとめ
骨盤位は妊娠後期の重要な胎位異常であり、分娩様式の判断には母児の安全を最優先する必要があります。
経腟分娩は適応条件が限られ、施設の体制やスタッフの経験が整っていなければリスクが高くなります。
一方、帝王切開は安全性は高いものの、母体への手術侵襲や将来妊娠時のリスクが伴います。
外回転術は有効な手段ですが、実施には慎重な条件設定と緊急対応能力が必須です。
最終的には、エビデンスとガイドラインに基づき、患者と医療者が納得できる形で分娩様式を選択することが重要です。


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