はじめに
母乳育児は、新生児にとって栄養面・免疫面で大きなメリットを持ちます。
しかし、すべての母親が問題なく授乳できるわけではなく、母体や児の状態によっては授乳の中止や注意が必要になる場合があります。
今回のCQ419は、「授乳に関する注意点は?」というテーマで、日常診療でも遭遇しやすいポイントを整理したものです。
この記事では、ガイドラインをわかりやすくかみ砕いて解説し、最後には問題も用意しました。
1. 直接授乳が難しい場合の対応
産後すぐにNICU入院や母児分離となるケースがあります。その際に重要なのは「母乳分泌を維持すること」です。
➡ 搾母乳(さくぼにゅう) を積極的に勧めることで、母乳産生が維持されます。
搾乳は母親にとって慣れない作業のため、助産師や医療者が正しい手技を指導することが重要です。
2. 授乳を中止すべきケース
以下のような状況では、母乳栄養を中止することが推奨されています。
- 母体が HIV感染症 の場合
- 新生児が 古典的ガラクトース血症 の場合
過去には「HTLV-1キャリアも中止」とされていましたが、現在は状況により短期授乳(90日未満)が選択肢に含まれるため、ガイドラインから削除されています。
3. 授乳が可能な感染症・状況
授乳を続けても良いか迷いやすい病態があります。
- HBs抗原陽性、C型肝炎 → 乳頭裂傷や出血がなければ授乳可能
- 母親の発熱や喫煙、少量アルコール摂取 → 授乳は原則継続可能
- サイトメガロウイルス(CMV)抗体陽性 → 正期産児は問題なし。ただし極低出生体重児では慎重に判断
- 活動性肺結核、単純ヘルペスが乳房にある場合 → 直接授乳は不可だが、搾母乳であれば与えられる
ここを混同してしまうと、母乳を必要以上に中止してしまい、母子双方にデメリットが生じるので要注意です。
4. 乳汁分泌抑制について
授乳を中止せざるを得ない場合には、乳汁分泌抑制薬 を使います。
- カベルゴリン(カバサール®)1mg 1回内服
- ブロモクリプチン(パーロデル®)2.5mg 1日2回 × 14日間
ただし、妊娠高血圧症候群や産褥期高血圧などがある女性では禁忌です。
また、氷罨法などの非薬物療法も併用されます。
5. 授乳期によくあるトラブルと対応
(1)乳房緊満
- 産後2〜6日に多い
- 乳腺の充血や浮腫で乳房が張って痛む
- 授乳や搾乳で改善し、放置すると乳腺炎に移行するリスク
予防:出産後早期の授乳開始、正しい授乳姿勢の指導
(2)乳腺炎
症状:発赤、腫脹、疼痛、38.5℃以上の発熱、インフルエンザ様の全身症状
- うっ滞性乳腺炎(非感染性):授乳間隔が空きすぎたときなど
- 化膿性乳腺炎(感染性):黄色ブドウ球菌(時にMRSA、GBSなど)
治療
- 授乳・搾乳継続
- 消炎鎮痛薬
- 抗菌薬(第一選択は合成ペニシリン系や第一世代セフェム系)
- 改善しなければ乳汁培養+感受性検査
(3)乳腺膿瘍
- 乳腺炎が進行して膿瘍形成
- 超音波で内部に膿を確認
- 穿刺または切開排膿+抗菌薬投与
- 難治例では乳腺外科や感染症専門医に紹介
問題
28歳の初産婦。産後5日目に発熱(38.8℃)、左乳房の発赤・腫脹・疼痛を主訴に来院した。診察で左乳房に三角形状の硬結と強い圧痛を認める。最も適切な対応はどれか。
A. 授乳を中止する
B. 授乳を続けながら抗菌薬を投与する
C. 授乳を中止し乳汁分泌抑制薬を投与する
D. 乳腺膿瘍と考え切開排膿を行う
解答と解説
正解:B
本症例は産褥乳腺炎。授乳は継続しつつ、抗菌薬を投与するのが基本。授乳を中止すると乳汁うっ滞が悪化し、膿瘍形成のリスクが高まる。切開排膿は膿瘍形成がある場合に行う。
まとめ
- 授乳が難しい場合は搾母乳を推奨
- 授乳中止は HIV感染、古典的ガラクトース血症 など限られたケース
- HBs抗原陽性やC型肝炎では条件付きで授乳可能
- 母乳分泌抑制薬は禁忌を確認して使用
- 授乳期のトラブル(乳房緊満・乳腺炎・乳腺膿瘍)を適切に管理することが母体と児の健康に直結する
授乳に関する正しい知識は、産婦人科医だけでなく研修医や学生にとっても必須のスキルです。臨床現場で遭遇したときに慌てないように、ガイドラインをしっかり学んでおきましょう。


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