はじめに
妊婦健診で「血圧が高い」「尿蛋白が出ている」といった所見に出くわしたとき、何をどう判断すればよいか迷ったことはありませんか?
本記事ではガイドラインより妊婦健診における高血圧・蛋白尿の対応について、現場での判断の流れや注意点を医学生や初期・後期研修医向けにわかりやすく整理しました。
妊娠高血圧症候群(HDP)の診断フローとは?
妊娠中に 収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上 の場合、HDPの可能性を考慮する必要があります。
ただし、診断には 日本産科婦人科学会の定義分類 に沿った病型分類が必要です(例:妊娠高血圧、妊娠高血圧腎症など)。
スクリーニングはどこで?どうやる?
- 血圧: 妊婦健診では原則「診察室血圧」で測定します。
→ 高値なら「HDP or 白衣高血圧」を疑います。 - 蛋白尿: 試験紙法で尿蛋白を半定量。
→ 2回以上連続して1+以上、または1回でも2+以上でスクリーニング陽性とします。
白衣高血圧との鑑別には?
外来での高血圧が「白衣高血圧」なのかどうかを見極めるために、家庭血圧測定が推奨されます。
- 測定タイミング:起床後と就寝前にそれぞれ2回
- 基準値:収縮期 ≧135mmHg または 拡張期 ≧85mmHg が目安
ただし、妊娠中の血圧は週数によっても変動するため、厳密な基準は確立されていない点に注意。
高血圧緊急症の基準と対応は?
以下のいずれかを複数回確認した場合は「高血圧緊急症」を疑い、即座に対応が必要です:
- 収縮期血圧 ≥160mmHg
- 拡張期血圧 ≥110mmHg
この場合、原則として入院管理と速やかな降圧が推奨されます。
尿蛋白の診断基準と注意点
- 蛋白尿の確定診断:
- 24時間尿で蛋白 ≧300mg
- または、随時尿のP/C比 ≧0.3
- スクリーニング検査の注意点:
- 試験紙法1+は偽陽性が多く、過信禁物
- 中間尿採取や出血・感染による偽陽性に注意
もし精密検査が難しい場合でも、スクリーニング陽性で蛋白尿とみなす場合もあり。
sFlt-1/PlGF比の活用
妊娠18週~35週でPE(妊娠高血圧腎症)が疑われる場合、sFlt-1/PlGF比の測定が有用。
- 38以下 → 発症リスク低(陰性的中率98%以上)
- 38超 → リスク高、要監視・転院も考慮
ただし、診断確定後や多胎妊娠では使用不可などの注意点あり。
問題
妊婦健診で妊娠28週の妊婦に収縮期血圧158mmHg、拡張期血圧96mmHg、尿蛋白1+を認めた。次に行うべき対応として最も適切なのはどれか?
A. その場で降圧治療を開始する
B. sFlt-1/PlGF比を測定する
C. 白衣高血圧の可能性を考慮して家庭血圧を測定するよう指導する
D. 入院管理とする
E. 尿培養を提出する
正解
C. 白衣高血圧の可能性を考慮して家庭血圧を測定するよう指導する
解説
本症例では収縮期血圧は140~160mmHgの範囲にとどまっており、「高血圧緊急症」の基準(160/110mmHg以上)には達していません。
そのため、即時の降圧や入院は不要であり、「白衣高血圧」の可能性を考慮して家庭血圧測定を指導することが妥当です。
sFlt-1/PlGF比はPEの早期発症予測には有用ですが、第一選択にはなりません。尿蛋白1+程度では感染疑いは乏しく、尿培養は不要。
まとめ
今回の内容は妊婦健診における「いつまでが外来管理で、いつからが緊急対応か?」の重要な境界について記載しています。
血圧と尿蛋白の組み合わせから「HDP」「白衣高血圧」「高血圧緊急症」の鑑別と、次の一手を見極める力を養っておきましょう!

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