はじめに
分娩室は「母体と胎児の命を守る最後の砦」です。
お産は多くの場合は順調ですが、大量出血、羊水塞栓症、子癇発作、新生児呼吸不全などは数分以内の対応が生死を左右します。
したがって、必要な薬剤や物品を事前に分娩室または近くに準備することは必須です。
常備しておくべき医薬品・物品のカテゴリー
- 母体救命用(大量出血・ショック・子癇など)
- 胎児・新生児蘇生用
- 診断・モニタリング用
- 手技・処置用器具
母体救命のための医薬品
(1) 出血対策
- 子宮収縮薬(オキシトシン、カルベトシン、メチルエルゴメトリン)
- 止血用物品:滅菌ガーゼ、子宮バルーン(バクリー®など)
- 止血薬:トラネキサム酸
- 輸液・輸血補助:代用血漿薬、静脈路確保用セット
重要ポイント
産後出血(PPH)は母体死亡原因の上位。対応フローチャートを壁に掲示し、スタッフ全員が手順を把握しておく。
(2) ショック対応
- 昇圧薬(ドパミン、アドレナリン)
- 酸素投与機材(酸素マスク・ボンベ)
(3) 子宮弛緩・整復補助
- ニトログリセリン、リトドリン(子宮内反症などで使用)
(4) 子癇・高血圧性緊急症
- 硫酸マグネシウム製剤(打腱器・拮抗薬グルコン酸カルシウムもセットで)
胎児・新生児蘇生のための準備
- アンビューバッグ(新生児用)
- 喉頭鏡・気管挿管チューブ(新生児サイズも含む)
- 吸引器
- 保温用器具
- 2020年版NCPRアルゴリズム掲示
診断・モニタリング用機器
- 分娩監視装置(常時使用可)
- パルスオキシメータ
- 自動血圧計
- 心電図モニター
- 超音波装置(胎盤早期剥離や子宮破裂の診断に有用)
- 時計(時刻は定期的に確認)
定期点検
- 有効期限の確認
- 消耗品は即時補充
- 月1回以上の点検ルーチン化
問題
35歳、初産婦。分娩第3期に大量出血が発生し、ショックバイタルとなった。産科危機的出血対応を開始。この時、分娩室に常備しておくべき薬剤として最も適切なのはどれか。
A. カルシウム拮抗薬
B. メトホルミン
C. ニトログリセリン
D. オキシトシン
解答
D. オキシトシン
解説
産後大量出血の第一選択は子宮収縮薬(オキシトシン)。
カルシウム拮抗薬は子宮弛緩目的で使うが出血の第一選択ではない。
メトホルミンは糖尿病治療薬で本症例とは関係なし。
ニトログリセリンは子宮内反症などの特殊な状況で使用する。
まとめ
分娩室の備えは、予期せぬ母体・新生児の危機に直面した際、迷わず最短ルートで救命処置に移るための基盤です。
必要な医薬品や物品をカテゴリー別に整備し、定期点検を習慣化することで、緊急時の初動を圧倒的に速くできます。


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