はじめに
妊娠41週を過ぎると、母体や胎児の健康に影響を与えるリスクが徐々に高まっていきます。
羊水量の減少、胎盤機能の低下、分娩時の胎児機能不全などが代表的です。
そのため、この時期の妊婦管理は、単なる経過観察ではなく、科学的根拠に基づいた計画的な判断が必要です。
今回はCQ409「妊娠41週以降妊婦の取り扱い」について、日本産婦人科診療ガイドライン2023をもとに、エビデンスや実際の臨床現場での対応を交えて解説します。
最後に確認問題もついています。
妊娠週数の再確認
管理の第一段階は、本当に妊娠41週を超えているかの確認です。
特に重要なのは、妊娠初期の超音波計測(頭殿長:CRL)です。
妊娠初期は個体差が少なく、誤差±3〜5日程度で推定できますが、妊娠後期になると±2〜3週もの誤差が生じることもあります。
- 最終月経日(LMP)だけでは排卵日の変動でずれが生じやすい
- 初期のエコーデータがあればそちらを優先して週数を決定
- 「41週」の診断が誤っている場合、誘発などの医療介入が不要に行われる可能性がある
このため、初期エコーで確定した週数が正しいかを必ず確認します。
妊娠41週以降のリスクとエビデンス
妊娠41週(late term)を超えると、胎児死亡率や新生児合併症の発生頻度が有意に上昇します。
日本のデータ(2017〜2019年)では、周産期死亡率は以下のように推移しています。
- late term(41週台):出生1000あたり 0.53〜0.74
- post-term(42週以降):出生1000あたり 3.12〜4.95
同時期の全妊娠の周産期死亡率(3.3〜3.5)と比較すると、post-termで明らかな上昇が見られます。
海外の観察研究でも同様の傾向が確認されており、ACOGやWHOは41週以降の管理強化を推奨しています。
胎児健常性評価(well-being)の必要性
リスク上昇に対応するため、妊娠41週以降は週2回以上の胎児健常性評価が推奨されます。
主な評価法
- 超音波検査
- 羊水量(AFI:羊水インデックス、最大羊水ポケット)
- 羊水過少は胎盤機能低下や胎児機能不全の予兆
- NST(ノンストレステスト)
- 胎児心拍数の基線、変動、加速・減速の有無を評価
- BPP(バイオフィジカルプロファイル)
- NST結果+超音波による胎動、呼吸様運動、筋緊張、羊水量を総合評価
エビデンス
- 週1回より週2回の評価の方が予後良好だった観察研究あり
- 羊水量評価とNSTを組み合わせたモニタリングが一般的
この段階で異常所見があれば、分娩誘発や帝王切開を検討します。
41週台(late term)の方針
この時期は「分娩誘発」または「自然陣痛待機」のいずれも選択肢になります。
分娩誘発を選ぶ場合
メリット
- 周産期死亡率、死産率、NICU入院率の低下が期待される
- 特に初産婦では児の予後改善が報告されている
デメリット
- 帝王切開率の上昇
- 子宮破裂や絨毛膜羊膜炎など誘発関連の合併症リスク
陣痛発来待機を選ぶ場合
メリット
- 自然分娩の可能性が高まり、医療介入を減らせる
デメリット
- 胎児機能不全や死産のリスク上昇
※待機を選ぶ場合は週2回以上の胎児健常性評価を必ず行うことが条件となります。
42週以降(post-term)の対応
妊娠42週を超えると、リスクはさらに上昇します。
主なリスク
- 周産期死亡率の有意な上昇
- 羊水過少による臍帯圧迫、胎児低酸素血症
- 胎便吸引症候群
- 肩甲難産などの分娩時トラブル
このため、ガイドラインでは原則として分娩誘発を推奨しています。
待機を選ぶ場合は、NST・超音波による連日の監視が必要です。
分娩誘発の実施時の注意
分娩誘発は医療的介入の中でもリスクがあり、慎重な判断が必要です。
日本産婦人科診療ガイドラインのCQ412(誘発方法)やCQ415(子宮収縮薬の使用)に従い、安全管理を徹底します。
誘発の一般的手順
- 頸管熟化(プロスタグランジン製剤、バルーン法)
- 人工破膜
- オキシトシン点滴開始
- 胎児心拍・陣痛の連続監視
必ず文書によるインフォームドコンセントを取得し、母児双方の安全を最優先に実施します。
問題
妊娠41週3日の初産婦。妊娠経過は順調で、胎児心拍数正常、羊水量も保たれている。最も適切な対応はどれか。
A. 即時分娩誘発を行う
B. 陣痛発来を待機しつつ週1回のNSTを行う
C. 陣痛発来を待機しつつ週2回の胎児健常性評価を行う
D. 帝王切開を予定する
E. 42週0日まで無監視で経過観察
正解
C
解説
妊娠41週台では誘発か待機のいずれも可能だが、待機の場合は週2回以上の胎児健常性評価が推奨されます。
週1回は評価間隔が長すぎ、急変リスクへの対応が遅れる可能性があります。
帝王切開は適応がなければ不要で、無監視の経過観察は不適切です。
まとめ
- まずは妊娠週数が正確かを初期エコーで確認
- 妊娠41週以降は胎児死亡や合併症リスクが上昇
- 胎児健常性評価は週2回以上が望ましい
- 41週台は「誘発」または「待機」の両方が可能だが、待機中は厳密な監視が必須
- 42週以降は原則として分娩誘発を推奨
- 誘発時はガイドラインの関連項目を遵守し、文書で同意を得て行う

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