はじめに
出産後の母体は、身体的変化だけでなく精神面でも大きな負荷を受けます。特に産褥期(分娩後約6週)は、うつ症状や不安症状が出現しやすく、産褥精神障害として総称されます。本記事では、産褥精神障害の特徴、リスク評価、診断・治療、母乳育児との関係について、後期研修医、初期研修医、医学生向けにわかりやすく解説し、確認問題と解説、最後にまとめを記載します。
1. 産褥期に注意すべき精神症状
- 産褥早期(分娩後2週以内)には、軽度の抑うつ気分「マタニティ・ブルーズ」が多く出現します。
- 産後うつ病は産褥精神障害の中で最も頻度が高く、褥婦の約15%に発症する報告があります。
- 発症時期は産褥2週または4週頃に見られることもあるため、早期発見が重要です。
- スクリーニングには**EPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale)**の使用が推奨されます。
リスク因子:
- 妊娠中の精神症状(うつ・不安)
- 望まない妊娠や家庭内トラブル、離別・死別などの心理社会的ストレス
これらを踏まえて、入院時・外来時に精神状態の観察や問診を行うことが推奨されます。
2. 診断と治療の基本方針
- 精神症状が出現した場合、過去に精神疾患の既往があるか否かにかかわらず、専門知識を有する医師に相談することが望ましいです。
- 日本精神神経学会・日本産科婦人科学会編「精神疾患を合併した、或いは合併の可能性のある妊産婦の診療ガイド」を参考に、
- 精神科への橋渡し
- 医療・行政を含めた継続的支援体制の構築 を検討します。
- 患者情報の提供や保健支援との連携については、妊娠中のリスク評価(CQ011)も参照します。
3. 薬物療法と母乳育児
- 精神疾患治療薬の多くは授乳可能です(CQ104-5参照)。
- ただし、授乳による睡眠不足が母体の精神症状悪化につながる場合、母乳中止を考慮することがあります。
- Shared decision makingを行い、母体・乳児双方の安全と母体の自己決定を尊重します。
- 授乳中の薬物療法は以下に注意:
- 母体の服薬アドヒアランス低下を防ぐ
- 精神症状の悪化予防
- 乳児の肝腎機能が未熟な場合(黄疸・低出生体重児など)には小児科医と連携
問題
30歳、初産婦。産褥2週目に軽度の抑うつ気分と不眠を訴えた。妊娠中の精神症状はなし。母乳育児を希望しているが、睡眠不足で気分が悪化する懸念がある。最も適切な対応はどれか。
- 母乳育児を続けさせることのみ強調する
- 精神科医への相談と薬物療法の検討、必要に応じ母乳中止も検討
- 薬物療法を行うが授乳は継続させる
- 自然軽快を待ち、介入はしない
- 入院させて母乳中止のみ行う
正解:
2. 精神科医への相談と薬物療法の検討、必要に応じ母乳中止も検討
解説:
母体の精神症状は早期に評価・介入が必要です。母乳育児と薬物療法の両立が可能な場合もありますが、母体の睡眠不足や症状悪化が予想される場合は、母乳中止を含めた個別判断を行い、精神科医・小児科医と連携します。
5. まとめ
- 産褥期は精神症状が出現しやすく、マタニティ・ブルーズや産後うつ病に注意
- 妊娠中のリスク評価を踏まえ、精神面の観察を徹底
- 精神症状出現時は専門医相談と継続的支援体制の検討
- 薬物療法は多くの場合授乳可能だが、母体負担や乳児状態に応じて判断
- 母体の安全と自己決定を尊重したケアが最重要
産褥精神障害は母体・乳児双方に影響を及ぼすため、早期発見・適切な対応・専門家との連携が不可欠です。

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