はじめに
子宮頸部高異形成(CIN: cervical intraepithelial neoplasia)や早期子宮頸癌を契機に、円錐切除術(conization)を受けた女性が、将来妊娠・出産を希望するケースが増えてきています。術式の進化や女性の出生年齢上昇などを背景に、「円錐切除後妊娠」の取り扱いが臨床上検討頻度の高いテーマとなっています。
このたびのガイドライン CQ503 は、「円錐切除後の妊娠において、妊娠管理にどう留意すべきか」を問う内容で、特に「早産リスク」「頸管長のモニタリング」「予防的頸管縫縮術(cerclage)の有用性/限界」に焦点が当たっています。後期研修医・初期研修医・医学生の方々が理解すべき「エビデンス」「実務上のポイント」「国家試験対策レベルの知識」を整理しました。
背景知識:なぜ「円錐切除後妊娠」がリスクとなるのか?
まず、術前・術後・妊娠中にどういったメカニズム・リスク因子があるかを整理します。
円錐切除術とは・目的
- 円錐切除術は、子宮頸部の高異形成(CIN2/3)や早期頸癌(上皮内癌・微小浸潤癌など)に対して、子宮頸部頚管・扇状部を円錐状に切除して病理評価を行い、かつ治療として予防的に行われる術式です。
- 切除の方法には、冷ナイフ円錐(cold-knife conization)、レーザー円錐、ループ式電気切除術(LEEP: loop electrosurgical excision procedure)などがあり、切除深さ・切除量・術式によって将来妊娠時のリスクが異なると報告されています。
妊娠時リスクとなる理由
円錐切除後に妊娠した際、なぜ早産・流産・子宮破水リスクが上がると考えられているか、主なメカニズムを整理します:
- 頸管やその支持組織・粘膜が切除されることで、頸管の物理的・機械的支持力が低下する可能性。
- 頸部切除部位・修復部位における組織変化(瘢痕化、血管・リンパ・神経構造の変化)により、頸管の伸展・収縮に対する耐性が低くなる可能性。
- 頸管粘液の産生・バリア機能が低下することで、上行性感染・羊膜炎・早期破水(PPROM: preterm premature rupture of membranes)を誘発しやすくなる可能性。
- 切除深度・体積・術式・術後から妊娠開始までの期間などが、リスクを修飾する要因として報告されています。
エビデンス整理
いくつか主要な研究・システマティックレビューを紹介します。
- メタ解析などにより、円錐切除後の妊娠における早産リスクが「対照群の約1.5〜3倍」という報告があります。 (例:早産率8~15%という報告)※CQ503解説にもこの数字が出ています。
- 切除深さ・体積が大きいほどリスクが上昇。たとえば、円錐切除高さ12 mm以下では7.1%、20 mm以下では10.2%という報告もあります。
- ただし、すべての研究で一貫して「円錐切除=必ず早産」となるわけではなく、切除量が少ない・残頸管長が十分確保されている・他にリスク因子がなければ、通常妊娠・出産できる可能性もあります。 例えば、「切除高さ12.6±5.4 mm・体積2.35±2.27 cm³」の群では、他に早産リスク因子がなければ有意な早産率上昇を認めなかったという報告もあります。
- 円錐切除後に「予防的(elective)頸管縫縮術(cerclage)」を行うことの有効性を検証した研究では、明確な予防効果を示さないという報告も多く、むしろ有害との報告もあります。
- 頸管長の計測(特に妊娠中期・子宮頸管長が短くなってきている)によって、早産リスクをある程度評価できるという報告があります。
以上の背景から、「円錐切除後妊娠=リスクゼロではない。特に注意が必要な“早産ハイリスク妊娠””と理解しておく」ことが重要です。
解説
1.早産ハイリスクと認識して管理する
- 円錐切除術後の妊娠では、早産率が対照群の1.5〜3倍と高いとされており、早産を誘発/促進する要因として「切除深さ」「術式」「頸管長の残存」「上行性感染」などが関与しています。
- たとえば、切除体積・高さが大きい症例ほど早産リスクが高いという研究があります。
- よって、臨床的には「円錐切除を既往にもつ妊婦=“早産リスクを増加させる背景あり”」と 事前に認識しておくこと が出発点になります。
- その上で、通常の妊婦健診+αで、より慎重なフォロー・早産徴候のモニタリングが求められます。
2.妊娠初期に頸管短縮が早産のハイリスクとなる説明をし,早産徴候(頸管短縮,子宮収縮等)に注意し管理を行う
- 妊娠初期~中期において、頸管長(頸管の残存長さ)が短くなってきたことは早産リスクを上げる因子として広く認識されています(例:<25 mmなど)。
- 円錐切除後妊娠においても、妊娠中期に頸管長が25 mm以下となる例では早産率が高いという報告があります。
- したがって、妊婦本人に対して「既往に切除術があるため、通常より早産リスクが上がる。妊娠初期から頸管長・子宮収縮・その他早産徴候に留意していきましょう」という説明を行うことが推奨されます。
- 実際には、妊娠中期の頸管長モニタリング(経膣超音波による頸管長測定)や、子宮収縮・子宮頸部変化・羊水量・上行性感染徴候の確認が実臨床で考慮されます。
- ただし、同時に「予防的に全例に頸管縫縮術を施行すべし」という強いエビデンスは現在のところ 確立されていません。ガイドライン中でも「早産ハイリスクであるという認識をもって管理を行う」という表現にとどまっています。
実務で押さえるべきポイント
ここからは、後期研修医/初期研修医/医学生として、病棟・妊婦健診・産科連携・説明時に押さえておくべき実践的なポイントを整理します。
妊婦説明・カウンセリング時の留意点
- 円錐切除術既往を持つ妊婦に対しては、妊娠早期(できれば妊娠確認後~妊娠12~14週前後)に以下を説明しておくと良いです:
- 「このような既往があるため、一般の妊娠よりも早産・中期流産・前期破水・帝王切開分娩などのリスクがやや上がる可能性があります」
- 「特に、頸管が短くなる(頸管長が減少する)・子宮収縮が強く起こる・羊水量が異常・上行性感染の疑いが出る、などの“早産になるかもしれない徴候”が出た場合には、早めに相談・フォローが必要です」
- 「ただし、だからといって必ず早産になるわけではなく、通常通り経過できる可能性も十分あります」
- 「今後のフォローアップでは、頸管長の測定・子宮収縮のチェック・感染徴候の確認・生活指導(例えば禁煙・適切な体重増加・安静指導など)を合わせて行っていきます」
- 「予防的に手術的な介入(例えば頸管縫縮)を全例に施すという確固たるエビデンスは現在ありません。状況に応じて、縫縮の検討が必要かどうかを産科・母体胎児・婦人科で連携して判断します」
このように「ハイリスクである認識 →説明→フォローアップ体制」を早期から設けることがポイントです。
妊婦健診・フォローアップの具体的観点
- 妊娠初期(12週前後~18週前後)で、円錐切除既往の有無を確認し、妊婦カルテに「円錐切除既往あり(頸管短縮リスク)」と明記しておくと、妊婦健診・助産師・超音波検査担当医・産科医の共有がスムーズです。
- 妊娠中期(おおむね16~28週)には、以下を定期的にチェック:
- 頸管長(可能なら経膣超音波にて)…例えば25 mm以下・短縮傾向を認める場合は早産リスク上昇と考慮。
- 子宮収縮の頻度・強さ・自覚症状(下腹部張り・痛み・腰痛など)
- 羊水量の変化、前期破水徴候(羊水漏・水少・臭い変化)
- 上行性感染徴候(帯下増加・発熱・膣・頸管炎徴候)
- 生活・環境要因(喫煙・低体重増加・多胎・子宮奇形・短間隔妊娠など)があれば併存リスクとして加味。
- 管理上、「頸管長が明らかに短縮してきている」「子宮収縮が頻回に出てきた」など早産徴候を認めた場合には、母体・胎児管理チーム(産科・母胎・婦人科)での検討が求められます。
- 施設によっては「早産リスク妊婦・妊婦早産サポート外来」「頸管早期短縮モニタリングユニット」などの体制がある場合もあるので、紹介・連携ルートを前もって確認しておくとよいです。
- 生活指導としては、一般的な妊娠フォローに加え、円錐切除既往を踏まえて「早産リスク低減のために有効と思われる介入(禁煙・適正体重増加・避免可能な婦人科感染予防など)」を強調することが望ましいです。
頸管縫縮術・プロゲステロン療法・その他介入の考え方
- 円錐切除後妊娠に特化した「予防的頸管縫縮術を必ず行うべき」という確固たるエビデンスは現時点ではありません。実際、縫縮を行った群で早産率がむしろ上昇したという報告もあります。
- また、頸管長短縮が明らかになった場合の「治療的(rescue)頸管縫縮術」やプロゲステロン療法・頸管ペッサリーの使用についても、円錐切除既往妊婦に特化した大規模試験・明確なガイドラインは限られています。
- よって臨床上は、あくまで「頸管短縮や早産徴候を認めたら、縫縮・プロゲステロン・母体管理体制などを施設・症例ごとに検討」するというスタンスが一般的です。
- 多胎・子宮奇形・過去早産歴など他のハイリスク因子を併存している場合には、より早期に縫縮術やプロゲステロン開始を検討する施設もありますが、円錐切除既往のみをもってすべての症例に介入を行うというわけではありません。
- 円錐切除既往がある妊婦では、頸管長測定などモニタリングを強化することがキーであり、「頸管長が短くなってきていないか」「収縮頻度が上がっていないか」をフォローすることが、現時点では最も実践的な対応と言えます。
妊娠後期・分娩・産後までの注意点
- 円錐切除後妊娠で早産リスクが上がっているという認識があるので、妊娠後期も「早産徴候・前期破水・子宮収縮・出血・異常胎動」などを油断せずモニタリング。
- 分娩様式については円錐切除が直接的に帝王切開率を上げるという確たる因果はありませんが、早産・胎児発育制限・羊水異常・児体重減少などをきたす可能性が上がるため、分娩施設・NICUとの連携が望ましいです。
- 産後フォローとして、子宮頸部の経過・術後の子宮頸部出血・将来の頸がんスクリーニング(HPV検査・細胞診)も忘れず行いましょう。妊娠・出産を経験しても、婦人科的フォローは継続すべきです。
臨床シナリオ例と考え方
シナリオ①
30歳、初産婦。2年前に子宮頸部CIN3で冷ナイフ円錐切除術施行。現在妊娠9週。特に他のハイリスク因子(多胎・早産既往・子宮奇形)はなし。
→このような症例では、術式が冷ナイフ(切除量大きめ)であるという点でリスクがやや上昇する可能性があります。妊娠初期の段階から「円錐切除既往あり=早産リスク上昇群」としてカウンセリングを行い、妊娠中期に頸管長モニタリングを計画します。特に頸管長が25 mm以下になってきたら、子宮収縮モニタリングや産科・母体胎児科との連携を検討。予防的頸管縫縮を全例に行うべきという根拠はないため、縫縮の必要性は頸管変化・その他リスク因子の出現によって検討します。
シナリオ②
34歳、既往:1回早産(35週)+1年前にLEEP(ループ式切除)でCIN2治療。現在妊娠13週。
→この症例では、過去の早産が既にあるため、円錐切除既往+早産既往でハイリスクが重なっています。頸管長測定・子宮収縮・破水徴候・感染徴候いずれもより厳密にモニタリングすべきです。頸管短縮を認めた場合には母体胎児科・婦人科と早めに相談し、縫縮・プロゲステロン療法など介入可能性を検討します。施設により早産予防ユニット(日帰り管理・短縮頸管フォロー外来など)へ紹介するのも選択肢です。
よくある質問と誤解への対応
- 「円錐切除術を受けたら必ず早産になるのですか?」
→いいえ。確率として早産リスクは上昇しますが、必ず早産になるわけではありません。切除量・術式・残存頸管長・他のリスク因子などによって個別に異なります。 - 「だから全員に頸管縫縮術をすれば安心ですか?」
→現在のエビデンスではそのような全例への予防的縫縮は推奨されていません。むしろ、頸管短縮や早産徴候を認めた症例に対して縫縮を検討するという考え方です。 - 「妊娠前に円錐切除受けましたが、今から妊娠するのにリスクはどれくらい残りますか?」
→切除深度・体積・残存頸管長・術後経過・妊娠開始までの期間・他の妊娠リスク因子の有無によって異なります。一概には言えませんが、妊婦健診時に「既往:円錐切除あり」という情報を産科医に伝えてフォロー体制を整えることが重要です。 - 「どのくらいの頸管長で“短縮”と判断すればよいですか?」
→一般には妊娠中期における経膣頸管長が25 mm以下あたりを “短い” とする研究が多く用いられています。円錐切除後妊娠においても同様の目安が使われることが多いですが、施設ごとに測定方法・カットオフ値が異なるため、産科専門施設の方針を確認してください。
問題
問題 1
28歳、G1P0。妊娠8週で妊婦健診を受けたところ、既往に2 年前に子宮頸部CIN3に対して冷ナイフ円錐切除術(切除深さ 18 mm)を受けていたことが判明。現在妊娠経過に特に異常なし。他に早産既往・多胎・子宮奇形・喫煙歴なし。
この妊婦に対して最も適切な管理方針として正しいものを一つ選びなさい。
A. このまま標準的な妊婦健診のみでよい。
B. 早産ハイリスクと認識し、妊娠中期以降に経膣超音波による頸管長測定を計画する。
C. この時点で予防的に経腟的頸管縫縮術(cerclage)を施行すべきである。
D. 頸管短縮がなければ、頸管縫縮術・追加フォローともに不要である。
E. 円錐切除既往があるというだけで、プロゲステロン療法を全例開始すべきである。
正解: B
解説:
この妊婦は円錐切除術既往があり、切除深さ 18 mm と比較的大きめであるため、早産リスクが一般より上昇していると考えられます。従って「早産ハイリスクと認識し、妊娠中期(通常16〜28週)に頸管長測定を含めたフォローを計画する」が適切です(ガイドライン CQ503 の Answer 1・2 に合致)。Aはフォローが不十分と考えられます。Cの「全例予防的縫縮術を施行すべき」というのは現時点のエビデンスでは支持されておらず誤りです。Dも同様にフォロー軽視となり不適切。Eも「全例プロゲステロン療法を開始すべき」という根拠はありません。
問題 2
35歳、G2P1。前回妊娠では35週で早産(児体重2200 g)で分娩。今回妊娠12週。既往に1年前にLEEP による子宮頸部切除術(切除深さ 12 mm)あり。妊娠経過は順調。16週時点で頸管長が 28 mm。助産師より「頸管長が短くなっていないので安心」と説明されたが、あなたが産科医として次に考えるべき対応として適切なのはどれか。
A. 頸管長が28 mmなのでフォローは通常通りでよい。
B. 既往早産があるので、早産ハイリスク妊婦として頸管長の再評価・子宮収縮モニタリングを強化する。
C. 頸管長28 mmということで、頸管縫縮術は不要。プロゲステロンも不要である。
D. 円錐切除歴が切除深さ12 mmであるため、早産リスクは特に上がっておらず、一般妊婦と同じ対応でよい。
E. 多胎妊娠ではないため、円錐切除歴は無視してよい。
正解: B
解説:
この妊婦は「前回早産あり」「円錐切除歴あり」という2つの早産リスクが重なっており、早産ハイリスク妊婦に該当します。頸管長が16週時点で28 mmと現時点では明らかな短縮は認められないものの、早産既往+円錐切除既往という背景よりフォロー強化が必要であり、「頸管長の再評価」「子宮収縮・破水徴候・感染徴候のモニタリング強化」が適切です。A・C・D・Eはいずれもリスク評価・フォローアップが不十分となるため誤りです。
まとめ
今回、「子宮頸部円錐切除後の妊娠の取り扱い」について、後期研修医・初期研修医・医学生向けに整理しました。ポイントをまとめると以下の通りです。
- 円錐切除術を既往にもつ妊婦は、一般妊婦と比べて早産・中期流産・前期破水などのリスクが上昇する可能性があります。
- 「早産ハイリスク妊娠」という認識をまず持ち、妊娠早期から妊婦・家族・医療チームにその旨を説明しておくことが重要です。
- 妊娠中期における頸管長モニタリング(経膣超音波)や、子宮収縮・上行性感染徴候・破水徴候のチェックを強化すべきです。
- しかしながら、円錐切除歴のみをもってすべての例に「予防的頸管縫縮術を行う」という明確なエビデンスは現段階ではありません。縫縮術・プロゲステロン療法・ペッサリーの検討は、頸管短縮・子宮収縮・他のリスク因子の有無を踏まえて「個別に」行うべきです。
- 妊娠後期・分娩・産後も、円錐切除既往を踏まえて管理を継続することが望まれます。
- 医療者は、円錐切除既往である旨をカルテ・妊婦健診カルテに明記し、産科・助産師・母体胎児科・婦人科との連携を早期から図ることが臨床遂行上の鍵となります。
妊娠・出産は多くの要因が絡むプロセスですが、「既往に円錐切除あり」という情報を見落とさず、妊娠初期からフォローアップ体制を整えておくことで、より安全なマタニティケアにつながります。


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