はじめに:一児死亡は「膜性診断」に始まり「膜性診断」に終わる
双胎妊娠の管理において、膜性(絨毛膜の数)が最重要であることは以前学びました。一児死亡(Single Fetal Demise: sIUFD)が起こった際、この膜性が「生存児の命運」を決定します。
- 二絨毛膜双胎(DC双胎): 胎盤が別々。血管がつながっていない。
- 一絨毛膜双胎(MC双胎): 胎盤を共有。血管が縦横無尽につながっている。
この「血管がつながっているかどうか」が、なぜそれほど重要なのか? それは、一児が亡くなったその瞬間に起こる血行動態の変化が、もう一人の赤ちゃん(サバイバー)に致命的なダメージを与える可能性があるからです。
1. 二絨毛膜双胎(DC)の場合:キーワードは「慌てない」
DC双胎の一児死亡は、単胎妊娠の一児死亡と似たような管理になります。
管理方針:原則「待機的管理」
DC双胎では、二つの胎盤の間に吻合血管(つながっている血管)がありません。したがって、片方の赤ちゃんの心臓が止まっても、もう一人の赤ちゃんの血圧や血流量に直接的な影響は及びません。
- 即座に分娩させる必要はない: 「死んだ児の毒素が回る」といった心配も、現代の管理ではほとんど無視できます。
- リスクは「早産」: 片方の児が亡くなることで子宮内環境が変化し、切迫早産を来すことがあります。管理のメインは、残された児をいかに正期産まで持っていくか、になります。
「死胎児症候群」の誤解
昔の教科書には、死んだ胎児を長く子宮内に置くと母体の凝固能が悪化する(DICを起こす)という「死胎児症候群」の記載がありました。しかし、双胎一児死亡において母体の凝固異常が起こる頻度は極めて低いため、これを理由に早期娩出を急ぐ必要はありません。
2. 一絨毛膜双胎(MC)の場合:恐怖の「急性胎児間輸血」
MC双胎の一児死亡は、DC双胎とは全く別次元の深刻な事態です。
病態:一児死亡の「瞬間」に何が起こるか?
MC双胎の胎盤には、ほぼ100%の確率で血管吻合が存在します。この吻合血管を介して、二人の赤ちゃんの間では常に血流が行ったり来たりしています。
- 一児の死亡: 片方の赤ちゃんの心臓が止まると、その子の血圧がゼロになります。
- 圧勾配の発生: 生きている子の血圧は保たれているため、急激な圧の差が生じます。
- 血液の逆流: 生きている子の血液が、血管吻合を通って、死んでしまった子の体へと一気に流れ込みます。
これを「急性胎児間輸血(acute feto-fetal hemorrhage)」と呼びます。
生存児へのダメージ:低血圧・貧血・虚血
血液を奪われた生存児は、急激な「低血圧」と「貧血」に陥ります。特に脳や腎臓などの重要臓器に十分な血液が行かなくなり、**虚血性の脳障害(脳性麻痺など)**や、最悪の場合は生存児もそのまま亡くなってしまう(続発的死亡)ことが起こります。
- 神経学的後遺症:約26%
- 続発的胎児死亡:約15%
この衝撃的な数字を忘れないでください。
3. MC双胎一児死亡後の管理:なぜ「すぐ出しても意味がない」のか?
ここが、最も誤解されやすいポイントです。「生存児が危ないなら、今すぐ帝王切開で出してあげれば助かるのでは?」と誰もが思います。
急遂娩(緊急帝王切開)が無効な理由
上述した「血液の逆流」は、一児が死亡した「その瞬間」に起こります。 私たちがエコーで一児死亡を確認したときには、すでに逆流は終わっており、生存児の脳障害や貧血は発生してしまった後なのです。
- エビデンス: 死亡確認後に大急ぎで出産させても、生存児の予後が改善したという証拠はありません。
- むしろ早産のリスク: 脳障害が起きてしまった後に、さらに超早産(未熟性)というリスクを上乗せするだけになってしまう可能性があります。
管理の実際
したがって、MC双胎でも基本的には「待機的管理」となります。
- 胎児貧血のチェック: MCA-PSV(中大脳動脈最高血流速度)を測定し、生存児が重症貧血に陥っていないか監視します。
- 分娩時期: 脳障害の評価(MRIなど)や肺成熟度を考慮しつつ、一般的には34〜36週頃を目安に分娩を検討します。34週未満での娩出は、メリットがリスクを上回る場合に限られます。
4. RhD陰性妊婦への対応:忘れがちな重要ポイント
ガイドラインで強調されているのが、RhD陰性妊婦への抗D免疫グロブリン投与です。
一児死亡が起こると、胎児の血液が母体血中に入り込む(母体胎児間輸血)リスクが高まります。膜性がどうあれ、母体がRhD陰性で感作されていない場合は、将来の妊娠に備えて抗D免疫グロブリンを投与することを忘れてはいけません。
5. 家族へのムーンショット・カウンセリング
一児死亡を伝えた後、家族には過酷な現実を説明しなければなりません。特にMC双胎の場合、以下の内容を誠実に、かつ慎重に伝える必要があります。
- もう一人は助かるとは限らない: 約15%の確率で、後を追うように亡くなる可能性があること。
- 障害のリスクが高い: 運よく生き残っても、約4分の1の確率で脳性麻痺などの後遺症が残る可能性があること。
- 今すぐ出せない理由: すでにダメージは発生しており、今はお腹の中で成熟を待つのが最善であること。
この説明は、医師一人の肩には重すぎます。臨床心理士やソーシャルワーカー、新生児科医と連携したチーム医療が不可欠です。
6. 実務的な豆知識:死産証書の「妊娠週数」
研修医がよく迷うのが、死産証書の記載です。 「死亡が確認されたのは20週だけど、出産(娩出)したのは34週。どっちを書くの?」
- 答え:娩出時の週数を記載します。 厚生労働省のマニュアルにより、「死産した児が満何週何日で死産(娩出)したか」を記入することになっています。診断時の週数ではないので注意しましょう。
問題 医師国家試験レベル
問題1
妊娠24週の一絨毛膜二羊膜(MD)双胎。定期健診の超音波検査で、第2児の心拍停止を確認した。第1児(生存児)の推定体重は週数相当で、羊水量は正常、中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)は1.2 MoMであった。母体はRhD陽性である。 適切な対応はどれか。
A. 直ちに緊急帝王切開を行う。
B. 第1児の貧血と健常性を注意深く観察しながら待機的管理を行う。
C. 凝固因子の枯渇を防ぐため、速やかに母体へヘパリンを投与する。
D. 感作予防のため抗D免疫グロブリンを投与する。
E. 第2児の血流を遮断するため、ラジオ波焼灼術を行う。
【正解】B
【解説】 A:MC双胎の死亡確認後の急遂娩は予後を改善しません。 B:正解。MCA-PSVなどで貧血をチェックしながら待機します。 C:死胎児症候群による凝固異常のリスクは低く、ヘパリンの適応はありません。 D:母体はRhD陽性なので不要です。 E:死亡確認後に行う処置ではありません。
問題2
双胎一児死亡の病態について誤っているのはどれか。
A. 二絨毛膜双胎では、生存児の神経学的後遺症のリスクは単胎妊娠と変わらない。
B. 一絨毛膜双胎では、一児死亡の瞬間に生存児から死亡児へ血液が移動する。
C. 一絨毛膜双胎の生存児における脳障害の主な原因は、死亡児からの血栓の流入である。
D. 胎児中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)の上昇は胎児貧血を示唆する。
E. 死産証書の妊娠週数は、娩出時の週数を記載する。
【正解】C
【解説】 C:以前は「血栓や毒素の流入」説がありましたが、現在は「生存児から死亡児への急激な輸血による低血圧・虚血」が主な原因と考えられています。他はすべて正しい記述です。
まとめ
ふたごの一児死亡という過酷な状況において、私たち産婦人科医が守るべきガイドラインの要点は以下の通りです。
- 膜性がすべて: まずはDCかMCかを確認。
- DCなら「安心」: 基本的に生存児は安全。早産に注意して正期産を目指す。
- MCなら「厳戒」: 一児死亡の瞬間に生存児の貧血・低血圧が起きている。
- 急がない: 死亡確認後の帝王切開にメリットなし。MCA-PSVで貧血を追い、34週以降の分娩を検討。
- 厳しい現実を伝える: 神経学的後遺症26%、続発的死亡15%。これを隠さず共有する。
- RhD陰性ならIg投与: 将来の妊娠を守るための標準治療。
- 書類は「娩出週数」: 死産証書のルールを正しく守る。
一児死亡の悲しみに寄り添いながら、残された命を最大限に守り抜くこと。非常に難しい舵取りですが、ガイドラインというコンパスを手に、チームで最善を尽くしましょう。

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